Blanke, O. (2012). Multisensory brain mechanisms of bodily self-consciousness. Nature Reviews. Neuroscience, 13(8), 556–71. doi:10.1038/nrn3292

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  • Bodily self-consciousness(身体実在感に基づく自己意識)に関して、それらがどのような身体由来の信号処理や神経メカニズムと関係しているのかを研究しようとするとき、3つの側面からのアプローチが有効。
    1. Self-identification with the body(身体を所有しているという経験:ownership)
    2. Self-location(<私>が空間の中に定位しているという経験)
    3. First-person perspective(<私>が世界を"どこから"知覚しているかに関する経験)

Limb representation and self-consciousness

Somatoparaphernia(身体パラフレニア

  • 70年前、Josef Gerstmannによって報告されている二人の患者は、右の側頭頭頂野(temporoparietal cortex)に障害を持ち、左手の腕と手に対するownerhipを失っていた。
  • 身体パラフレニアには2つのパターンが存在する。
    • 自分の手足を、他人の身体に属しているものと感じる(ownerhipの欠損)。
    • 他人の身体が、自分の身体に属しているように感じる(ownerhipの過剰)。
  • 身体パラフレニアを生む損傷は、右後部島right posterior insula)に集中している。

The rubber hand illusion

  • 初期の研究は、illusory hand ownershipとproprioceptive driftの変調に関して共通の脳内メカニズムを想定したが、近年の発見によると、これら二つの現象は、はっきりと異なる感覚間処理プロセスを基礎にしている。
  • これら二つの量(強度)は、異なる要因によって変調されるとともに、お互いが示す相関はわずかなものである。

Brain areas and multimodal neurons involved in illusory limb ownership

  • 以下は、illusory limb ownershipとの関連が報告されている脳の領野。
    • 前運動皮質bilateral premoter cortexPMC
    • 頭頂間溝intraparietal sulcusIPS
    • insula
    • 感覚運動皮質sensorimoter cortex
    • 他にも、小脳cerebellum)・補足運動野supplementary motor area)・前帯状皮質anterior cingulate cortex)・感覚運動皮質上のガンマ波にも、その関連性が報告されている。
    • PMC前頭前野prefrontal cortex)あるいは頭頂野parietal cortex)をつなぐ経路の損傷が、illusory hand ownerhipの経験を阻害することがわかっている。
  • Makinらの仮説によると、 illusory hand ownershipは、すでに、人間以外の霊長類でその存在が確認されている、触覚信号と視覚信号と固有感覚信号を統合するPMCIPSにおけるtrimodal neuronsによって表象されている。
    • PMCIPSのニューロンは、反側の皮膚に対する触覚刺激、それらの手や腕に近づく視覚刺激双方に対して反応する。
    • これらのニューロンの視覚RF(receptive fields:受容野)は、arm-centeredの座標系を持ち、固有感覚信号に応じて、受容野の空間特性は変わる。
    • 単にfake handを見たり、あるいは同期的な視触覚刺激によって、IPSPMCのニューロンは、fake handの位置をエンコードできるように、IPSPMCの視覚RFの空間特性をシフトするのかもしれない。
    • 実際、猿のIPSの中のbimodal neuronの振る舞いは、上記の仮説にうまく適合する。

Body representation and self-consciousness

  • 身体パラフレニア・RHIは、自己意識という現象を直接に探求するうえで、(それだけでは)十分な道具立とはならない。というのも、自己意識は、総体的には単一なものして経験されるものであり、複数の身体部位の集まりという切り口では記述しきれないものであるから。実際、RHIやパラフレニアを経験する人は、(異常のある部位以外の)残りの身体部位については、通常の自己位置感覚・一人称視点・自己同一性(bodily self-consciousnessの3つの構成要素)を保持している。
  • 特定の脳疾患研究がすすめられるなかで これらの3要素が、autoscopic phenomena(自己像幻視)と呼ばれる現象によって変調されることがあることがわかった。
    • こうした現象は、映像・VR・ロボティックデバイスを使うことによって、健常者に対しても引き起こすことができる(referred to as out-of-body illusions or full body illusions)。
    • 具体的には、被験者の背中や胸に直線的な触覚刺激を与えると同時に、被験者のHMDには、それらに同期して人やアバターの身体に同じく刺激を与える図像を提示するものである。

Experimental approaches

  • Fig2(自己同一性を変調する実験環境のバリエーション)
    • (a) 被験者の後方に位置するカメラから被験者自身が撮影された映像をHMDを通してみる。このとき、背中に接触刺激を与えると、あたかも自分が、自分の前方に位置しているかのように感じる(illusory self-identification with the virtual body)。
    • (b) 同様に、カメラは被験者後方に位置する。被験者の胸には、実験者によって触覚刺激が周期的に与えられる。カメラには、ちょうどカメラを仮想的な顔の位置と見立てて、仮想的な身体の胸に当たるカメラの下付近に棒を(触覚刺激と同期して)定期的に押し当てる動作を見せる。これによって、あたかも自分が、カメラに映る自分の後方に位置しているように感じる(illusory self-identification iwth the camera viewpoint)。
    • (c) ミラーを4つ並べることで、自分自身の手前に、横たわっている自分の像を映すことができる。
    • (d)(a)において、背中に感じる触覚刺激の位置(A)とHMD内で観察されるアバターの背中に与えられる触覚動作の位置(B)を条件として実験を行うことで、錯覚の強さに関するbehaviouralな指標を得ることができる。具体的には、AとBの位置が一致している場合(物理的身体への触覚刺激と仮想身体への視覚刺激の一致)、自身の触覚刺激が与えられた場所(背中の上方か下方か)をより素早く解答することができる(CCE: the crossmodal congruency effect)。*1

Self-identification

Experimentally induced changes in self-identification.

  • Fig2(d)に関して、illusory full-body self-identificationは、触覚刺激に対する視覚刺激の干渉に影響されるため、視覚刺激と触覚刺激が機能的に同一の空間で知覚されたものであるかどうかを示す行動学的な指標となる。
    • 以上の発見は、illusory self-identificationを経験している最中、被験者の背中の前方2mで観察される視覚刺激と(背中に与えられた)触覚刺激は、機能的に、同一の空間で知覚されていることを示唆している。
  • virtual bodyに与える脅威に対するskin conductance responseの反応も、full bodyの錯覚強度に関する指標となる。

Activity in cortical areas reflects self-didentification

  • full body illusionにおけるvirtual bodyに対するself-identificationに関与する領野として知られるのは以下の3つ。
    • 両側の腹側運動前野bilateral ventral PMC
    • 左の頭頂間溝left IPS
    • 左の被殻left putamen
    • これら3つの領域は、Full body illusionの典型的な実験セットにおいて、視触覚刺激によって活性化する。
    • これらの活動は、RHIにときも同様に活性化する。

Self-identification and multi sensory integration(pp.559-562)

  • 両側のPMCIPS運動感覚野sensorimoter cortex)は、illusory limb ownershipの活性化にも関与していることから、full-body ownershipとbody-part ownershipは、少なくとも部分的には、類似の脳内領域におけるやはり類似の視触覚メカニズムを基礎としていることを示唆している。 ヒト以外の霊長類を対象とした研究によると、腕に対する身体所有感も、全身に対する所有感も、ともに、視触覚神経(visuotactile neurons)の働きを基礎としている。例えば、霊長類のPMCIPSには腕や胴体に関する視覚と触覚刺激とを統合するプロセスに関与するbimodal neuronが存在する。このように、これらの領域には、腕中心座標系のニューロン(arm-centred neurons)に加えて、大きな受容野を有する胴体中心座標系のニューロン(trunk-centred neurons)が存在する。したがって、それらは、胴体の表面を符号化するだけでなく、ある条件では、猿の身体全体をも表象する。ヒトの両手の所有感や全身に対する所有感(self-identification)におけるIPSやPMCの関与、猿の同領域におけるバイモーダルニューロンの特性の双方を考慮すると、full-body self-identificationの変化は、HMDに映されたvirtual bodyに関する胴体中心バイモーダルニューロン受容野の位置やサイズの変化の結果であると言えるかもしれない。このシナリオに従うと、こうしたバイモーダルニューロンの視覚受容野は、視触覚刺激を受けると拡大し、視覚上のより遠方にあるvirtual bodyの位置をエンコードするようになるのかもしれない。
  • しかしながら、全身のownershipと身体部位のそれとでは、幾つかの重要な差異が存在する。 例えば、full-body illusionの間、2mの距離を隔てて映されたvirtual bodyに対してself-identificationを経験することになる。一方、RHIの場合、ラバーハンドを距離的に離れた位置に置いたり、その角度を適切な方向からずらしてしまうと、錯覚は減退するか消失してしまう。2m前方の位置に配置された自分自身の身体を眺める状況は、ラバーハンドの置かれた方向がずれている状況よりも、身体構造的により強い不和を生むであろうことを考慮すると、full-body illusionがそうした条件(すなわち2m前方という遠く離れた位置関係)においても生起しているということは驚くべきことである。筆者の考えでは、胴体中心と腕中心のニューロンの違いこそが、この点を説明するものである。実際、猿に関して、area 5・頭頂野の中の腹側頭頂間溝(VIP:ventral intraparietal)で見られる胴体に焦点化された触覚の受容野に関するバイモーダルニューロンの視覚野は、手中心の視覚受容野(あるいは触覚受容野)と比べて大きい。さらに、胴体中心の視触覚神経のvisual receptive fieldは、身体外空間に向けて、1m以上も延長されることがある。一方で、arm-centeredの視触覚神経において生じる延長距離はより少ない。
  • このように、上肢に対する所有感も、全身に対する所有感も、視覚と触覚双方の刺激に対して活性化する視触覚メカニズムが関与しており、なおかつ、視刺激と触刺激の時間的な同期性に依存して変調するものではあるが、胴体中心の視触覚ニューロンと手中心の視触覚ニューロンでは、(視覚あるいは触覚)受容野の場所やサイズが異なることからもわかるように、それらは、少なくても部分的には異なるメカニズムを基礎としている。 加えて、胴体中心と手中心の視触覚ニューロンは、視覚と触覚を統合に関与する領野において、互いに異なる領域で観測されることが多い(例えば、area 5)。さらに、VIP(ventral intraparietal:腹側頭頂間溝)では、胴体・頭部をコードする視触覚ニューロンが多く存在するが、手をコードするものは少ない。一方で、IPSにおける前方領域では、その逆の傾向を持つ。 また、EBAExtrastriate Body Area:?(視覚野の一部))*2においては、今のところ視触覚ニューロンは確認されていないが、この領域における活動は、観測者の動きを見たり、身体の形をした物体を触覚的に探索する際に活動状態が変化することから、EBAにも、self-identificationに対する類似のメカニズムが存在することを疑わせるものである。

Neurologically induced changes in self-identification

  • heautoscopyの患者は、外部空間に第二の身体を持っているように感じ、それに対して所有感ないし強い愛着を持つ*3
    • その外観は、患者の外観の一部を反映している。
    • 前庭系の関与、さらに現実の身体に関する情動的処理からの乖離は、離人症(depersonalization disorder)との関係性を示唆する。
  • heautoscopyは、視覚・触覚・固有感覚に加え前庭系のmultimodalな統合における不具合から生じると考えられている。
  • 患者は、self-identificationのみならずself-locationにも変調をきたし、「あなたはどこにいますか」という問いに対して、うまく答えられない。
    • 実際の身体と身体外空間との位置を頻繁に交互し、あるいは、 自分が二つの位置を同時に有していると経験されることすらある。
    • このような経験は、「split in two parts or selves」「as if I were two persons」「having a split personality」というような言葉で語られる。
  • 現在のところ、heautoscopyを誘発する脳の損傷部位は不明。関与が示唆されているのは、左の側頭頭頂野left temporoparietal cortex) (>)後頭側頭野occipitotemporal cortex)・

まとめ(self-identification)

  • self-identificationは、 IPS PMC (>>)sensorimotor cotexEBA側頭頭頂野被殻putaman)のサブ領域の関与が指摘されている(このうちIPSPMCの役割が最も重要)。
    • これら5つの領野は、すべて、視覚・触覚・前庭系信号を統合する場所 として知られており、EBAsensorimoter cortex以外の領域には、胴体や顔、時には足までもを表象する受容野を持つbimodal neuron・あるいはmultimodal neuron(TPJ内)の存在が確認されている。
  • VRによって 実験的に誘発されたself-identificationの変調は、これら5つの領域(とりわけIPS・PMC)におけるバイモーダルニューロンの視覚受容野の拡大・移動によるもの と考えられる(確たる証拠はない)。

Self-location and first-person perspective

  • self-locationとfirst-person perspectiveの変化は、一緒に起きるのが普通。

Experimentally induced changes in self-location and first-person perspective.

  • 多くの被験者は、self-locationを、自分の身体内部に、とりわけ、頭の中にあると指示する。
  • (Mizumoto & Ishikawa, 2005)*4の実験。
    • 部屋の隅にカメラを固定し、被験者を含む部屋の中のシーンを撮影。その映像は、HMDを通して(その部屋を歩く)被験者に与えられる。
    • こうした状況で、被験者は、自分自身の位置をカメラの位置にも現実の位置にもどちらにもあるように感じると報告する。
  • (lonta et al, 2011)*5のFMRI実験。
    • 被験者は仰向けとなり、HMDを介して、アバターの背面が映る映像を見る。
    • 被験者の背中には直線的な接触刺激が与えられ、それとともに、映像内では、アバターに対して(現実の背中に与えられる接触刺激と同期あるいは非同期に)触覚刺激が付与される様子が映される。
    • 同期条件で、被験者のself-locationは、アバターの方向へと移動するが、興味深いことに、その方向は一意ではなく、(重力に対して)上方向のfirst-person perspectiveを持つグループ(仰向けの自分の上面にアバターが浮かんでいる状態、up-group)、下方向のfirst-person perspectiveを持つグループ(うつ伏せの自分の下面にアバターが浮かんでいる状態、down-group)に分かれる。
    • up-groupは、最初自分の位置を低く見積もり、同期刺激による身体位置の上昇を経験する。down-groupは、その逆。
    • 自分の身体から遊離した上昇・飛翔・漂流、、(flying, floating, rising, lightness)の感覚は、up-groupではまれで、down-groupで頻繁に報告された。
    • 以上の例は、self-locationがfirst-person perspectiveの方向に依存して決まることを示している(一方で、self-identificationはfirst-person perspectiveの方向に影響しない)。
  • ego-centre(観察者にとっての、外部空間を観察する想像上の単一的視点)が、視触覚の同期刺激によって変化し得るかを調べることは興味深い。
    • この点を探求するにあたって、prism adaptation(プリズム順応)に関する研究が興味深い。
    • プリズム順応とFull body illusionは、外界と観察者の間に空間的に変調したフィルタが挿入されているという類似のフレームワークを持っており、同様のメカニズムを基礎としている可能性が考えられる。

Activity in bilateral temporoparietal cortex reflects self-location and first-person perspective

  • EEGを使った研究によると、self-locationの変調は、両側の内側感覚運動皮質medial sensorimotor)・運動前野内側medial premotor cortex or medial PMC)における脳波の8-13Hzの活動と関係している。
  • 右の頭頂側頭接合部TPJtemporal parietal junction:)および、内側前頭前皮質medial prefrontal cortex) におけるalpha波の強さが、illusory self-locationの変化量と相関を持つ。
  • 先の(lonta et al, 2011)によるFMRI研究によると、self-locationとfirst-person perspectiveに関して、両側のTPJとの活動に関連がみられた。
    • TPJは、左右の後部上側頭回(posterior superior temporal gyrus or pSTG)において、SYNC条件とASYNC条件との違いに対してもっとも強い感度を持ち、さらに、first-person perspectiveにおけて経験される方向の違いに対しても活動状態を変える。
    • 一方のグループでは、pSTGはASYNC条件でより強い活動が見られ、もう一方のグループでは、SYNC条件でより強いpSTGの活動が見られる(BOLD responseは、self-locationがより高く上昇していると経験される条件において、弱くなる傾向にある)。
    • 以上の発見は、異なる感覚間刺激の同期は、pSTGの活動を十分に説明する単一の条件ではないことを示している。

Neurologically induced changes in self-location and first-person perspective

  • self-locationとfirst-person perspectiveにおける後部上側頭回pSTGposterior superior temporal gyrus)の関与は、pSTGを損傷した患者がout-of-body experienceを経験する事実と整合的である。
  • OBEの患者は、self-locationとfirst-person perspectiveの双方が変化することを経験する(彼らは、自分の身体を上方の視点から眺めるが、現実の身体位置はそれらの視点にひきずれることはない。)
  • 癲癇の患者の、右角回right angular gyrus)およびpSTGの前方を2秒間電気的に刺激することで、OBEを実験的に誘発することができる(Blanke et. al., 2002)*6
    • 2秒間、これらの患者は、電気刺激によって上昇したfirst-person perspectiveとself-locationから、天井の下にいる感覚、部屋・自己身体・他人を含む空間全体を眺めている感覚を経験する。
    • (lonta et al, 2011)の研究によると、ある実験条件において、健常者は、180度の反転と自己身体からの乖離を経験するが、これはOBEの患者に生じた変化と同様である点は興味深い。
  • OBEは、触覚・固有感覚・視覚に加え、とりわけ重要な前庭感覚からの刺激を統合する際の異常によって引き起こされると考えられている。
    • 解剖学的には、OBEは極めて多様な脳構造との関連が指摘されているが、とりわけ最も強く関与している場所は、右の角回right angular gyrus)であると考えられている。

Viewpoint changes and spatial navigation

  • Full body illusionの実験としては、一人称視点(被験者は首を垂れるように指示され、HMDからvirtual bodyの頭部を除いた胴体・脚部が見える環境)と三人称視点(被験者は真っ直ぐを見つめ、HMDを通して短い距離にvirtual-bodyと相対する環境)の二つのパターンが存在する。
    • 被験者は、一人称視点でより強力なself-identificationを報告する*7
    • うつ伏せの状態にした条件でも一人称視点で、(ASYNCと比して)強いself-identificationが報告されている*8
      • このとき、左右の前運動皮質premotor cortexPMC)と左の頭頂間溝intraparietal sulcusIPS)が、高いself-identificationの報告された試行で活性化している。
    • virtual human、virtual mirror等、種々のvirtualな物体を用いた研究は、一人称視点の重要性を確認しているが、一方で、 一人称視点においては、視触覚刺激の付与が強力にself-identificationの強さを変えることはない。一方で、三人称視点で、視触覚刺激の影響は強くなる。従って、二つの視点がself-identificationを誘発するメカニズムにおいて、視触覚の矛盾の作用の仕方は異なる。
  • (Nicole et. al, 2006)*9の複数の実験系において、被験者は視界の中心にアバターが存在し、その周りに異なる数の赤いボールが存在するシーンを見つめる。
    • 被験者は異なる視点を取り(アバターを起点とする視点 - 一人称視点、あるいは種々の赤いボールを起点とする視点 - 三人称視点)、そのなかで、アバターがいくつのボールを見ることができるかを想像するように指示される。
    • その結果、三人称視点の場合では、上頭頂小葉superior parietal lobule)と運動前野premotor cortex)領域が活性化し、一人称視点では、前頭前野prefrontal cortex)・後部内側頭頂葉medial posterior parietal cortex)および両側の上部側頭回STGsuperior temporal gyrus)を活性化させる。
    • 関連する実験では、頻繁に視点を交換させた場合、後部中側頭回posterior middle temporal gyrus)を中心とする右の頭頂側頭接合部(TPJtemporal parietal junction)を活性化させる。
    • 一人称視点の切り替えに関わる脳の領野は、ランドマークの認識や空間的なナビゲーション時に活性化する脳の領野と関連するかもしれない。
      • 右のTPJIPS楔前部precuneus)および海馬傍回parahippocamal)を含む脳のネットワークは、種々の異なる三人称視点から想像上の視点を取るように被験者が求められる時に活動する。
      • さらに、こうした脳領域は、allocentric(環境中心・物体中心の座標系における)な視点変換に関与する場所とは異なる。

(Box 1) egocentric(自己中心座標系)とallocentrice(環境中心座標系)による、心的な視点変換

  • egocentricのパラダイムでは、被験者は、自身の位置や視点を想像上の新たな地点に移すように要求され、その新しい視点から変動する属性についての判断について問われる。
    • egocentricな心像生成は、右の中側頭回middle temporal gyrus)・補足運動野supplementary tor area)・左の中後頭回middle occipital gyrus)・さらに左の頭頂後頭接合部TPJtemporal parietal junction)の関与が指摘されている。
    • 視覚的に表象された人間 (visually presented human figures)の視点を想像するように要求された別の実験では、以上の領域に加えて、左右の(しかし右が圧倒的に優勢)TPJの活性化、さらに両側の後頭側頭腹内側領域(extrastriate body area)に近接する外線条皮質(extrastriate cortex)の活性化が確認された。
    • こうしたegocentricな心像生成は、1)より高い視点をとるとき、2)両側のTPJに強い活動が見られる場合に、(通常の視点あるいはより低い視点をとる場合と比べて)より速く、そして正確となる。
  • allocentricに視点を展開する場合、被験者はシーンやarray、あるいは物体の空間的変換を想像するように要求される。
    • 行動学的研究や脳画像研究では、egocentricとallocentircは全く異なる脳活動のプロセスを基礎としていることを示している。とりわけ、 allocentric な変換は右脳、そのなかでもとりわけ後部頭頂皮質(posterior parietal cortex)の領域の活動に多くを負っている。

Vestibular processing and the first-person perspective

  • Petkovaらの一連の研究(Petkova et. al, 2011, Frontiers in Psychology, Current Biology) では、視覚入力をスイッチすることで一人称視点と三人称視点を入れ替えているが、OBEの患者や、背面ストロークのHMD実験(Ionta et. al., 2011)では、現実の視覚入力を一切変化させることなく、一人称視点の変化を経験する。
    • このことが示唆するのは、一人称視点(first-person perspective)は非視覚的な前庭系による構成要素を有しており、従って、視覚や体性感覚からの入力に頼っているself-identificationとは、(部分的には)異なる脳メカニズムを基礎としているかもしれない。
    • (Ionta et. al., 2011)では、first-person perspectiveが、visuovestibularの性質を持っているという主張が展開されている。
      • 被験者は、HMDを通して新しい視覚像を得るが、その中では、virtual bodyにかかる視覚的な重力に関する手がかりと現実の身体に経験される前庭系の重力に関する手がかりが相互に矛盾している。すなわち、これらの実験において示されている身体は、現実の重力の方向とは矛盾するかたちで提示されている。筆者は、この点こそが、first-person perspectiveで経験される方向の違いを生んでいると主張している。すなわち、 up-groupに属する被験者は、より現実の身体にのしかかる前庭系の手がかりに強い重みを与え、virtual bodyに与えられていると想定される(したがって視覚ベースの)重力の手がかりは軽視される。down-groupに属する被験者は、この逆のパターンを示す。 実際、他の研究によると、視覚と前庭系の統合の程度にあたっては、個人差が確認されており、視覚系に強く重みを与える者と、前庭系に強い重みを与える者とで分けられる。
  • first-person perspectiveにおいて経験される方向が、とりわけ被験者が仰向けの状態にいるときに、visuovestibularの統合の程度に依存するという可能性は、健常者が経験するOBEの73%、脳疾患を持った患者によるOBEの80%が仰向けの状態で生じる事実と整合的である(←小鷹は文意を理解できない。)
    • 耳石に損傷のあるものやmicorogravity環境において、人々が普遍的に経験するinversion illusionにおいては、一人称視点は強力に変更される(180度の反転・down-lookingな一人称視点)。
    • こうした結果は、重力信号の不在あるいは異常、さらにはvisuovestibularの統合における異常によって生じる。
    • このように、body positionは、強力に、視覚と前庭系の知覚に影響を与えることが知られている。
  • まとめると、脳患者あるいは実験的に誘発されるfirst-person perspectiveで経験される方向の変化は、平衡系・視覚系を統合する際の異常に起因して生じている可能性が高い。

(Box 2) Gravity and bodily self-consciousness

  • microgravityを経験した被験者の報告によると、加速度の不在が種々の身体知覚に関する錯覚を引き起こす。
    • 30sほどのfree fallが継続するparabolic flight(放物線状の飛行)の場合、被験者は、自分の身体あるいは周囲の空間が、垂直軸上の上方あるいは下方に方向付けられている( being oriented up- or downwards (vertical orientation) )ように感じる(microgaravity環境においてそのような方向性を持つことが無意味であることを理解しつつも)。
    • 垂直軸方向の方向知覚(The percept of vertical orientation)は、前提感覚系も体性感覚系も視覚の手がかりも全て不在となった時、すなわち目を閉じた状態でfree-floatingするときに消失する。 このとき、方向性は失われるとともに、空間的なanchorもまた消失する。
  • microgravityにおけるもっとも一般的な錯覚は、Graybiel and Kelloggによってはじめて報告されたinversion illusionであり、この錯覚を感じている時、自分自身の身体が外部空間に対して逆さまになったり(inversion illusion)、あるいは観察者に対して部屋が逆さまに反転する(room-tilt illusion)ように感じ、これらは組み合わされることがある。
    • これらの感覚は非常に抗しがたいものであり、当事者は、飛行中、自分が誤った位置をとっていると考えてしまう。
  • 触覚、圧力感覚もまた、inversion illusionに強力な影響を与える(小鷹注:が、特にその例は書かれていない)。

The role of multimodal neurons in self-location and first-person perspective

  • self-locationの変化は、self-identificationの変化の場合と同様に、胴体中心の視触覚バイモーダルニューロン(頭頂側頭結合部TPJ腹側頭頂間溝VIP-ventral intraparietalを含む後部頭頂皮質posterior parietal cortexあるいは、運動前野内側medial PMC、そしてEBA -Extrastriate Body Areaも候補の一つ)の空間特性の変化によるものであるかもしれない。
    • これらの領域のバイモーダルニューロンは、視触覚刺激の同期によって、その視覚受容野が変位・拡大し、より遠い位置に映る身体を符号化するようになる。
    • 猿の実験では、視触覚刺激によってarea 5PMCのニューロンの特性が変化し、自身の腕を符号化する状態から、偽の腕を符号化するようになる。
    • VIPPMCTPJにいて視触覚ニューロンが存在することは、十分に認められていることである一方、EBAに関しては、未だ不透明である。
  • 一方で、これまでに示した脳画像研究・脳疾患研究が示唆していることには、self-locationとself-identificationを遂行する脳内処理メカニズムには大きな違いがある。
    • PMCEBAがself-identificationにおける役割は複数の研究において示されているが、PMCのself-locationに対する関与は未だ不明であり、EBAのself-locationに対する関与もmarginal。
    • self-locationとfirst-person perspectiveが相互依存的であることを考慮すると、self-locationとfirst-person perspectiveはともに、前庭系の垂直定位信号と、その視覚的な垂直定位さらに体性感覚信号とを統合する必要があり、これは、self-identificationとは全く異なる脳処理の経路を必要とする。
  • 筆者は、self-locationとfirst-person perspectiveを行う脳部位は以下の3つの領域にまとめられるという仮説を持っている。
    • 後部頭頂皮質posterior parietal cortex)と頭頂側頭接合部TPJtemporal parietal junction
    • 頭頂-島前庭皮質PIVCparieto-insular vestibular cortex
    • 腹側頭頂間溝領域area VIPventral intraparietal)および中上側頭領域(area MST:''middle superior temporal')
    • 猿の研究で、これらの領域には密にvestibular neuronsが含まれており、それらのニューロンの多くが両側を含む巨大な空間に対して応答を示す視覚受容野と体性感覚受容野を有する。
    • 視覚野の視野角は概ね50度以上であり、体性感覚受容野は、首・肩・胴体・あるいは体の半分あるいは全体を覆う領域に対する刺激に反応する(PIVCVIPMST)。
      • VIPにおける視触覚バイモーダルニューロンは、同一方向の視覚運動刺激と触覚運動刺激を符号化しており、これらのVIPのニューロンのうちのいくつかは、体全体を符号化するものである。
    • これらのニューロンのうちいくつかは、self-identificationの符号化に関与している可能性があるが、筆者は、VIPのサブ集団は、self-locationとfirst-person perspectiveを処理するために、前庭系信号に応答するのではないかと考えている。
      • このような(前庭系を含めた)trimodal neuronsの存在は、猿のTPJPIVCMSTに確認されている。
      • MST内のニューロンは、さらに、視覚信号・前庭系信号間の統合に基づいて前進方向の知覚への関与が示唆されている。
      • したがって、脳疾患あるいは実験的に誘起されるfirst-person perspectiveの変化とそれに伴うself-locationの変化は、VIPMSTPIVCにおける前庭視覚系ニューロンにおけるotolithic(耳石) activityの不在・不調によって引き起こされるているはずである。
      • Otoliths(耳石)は、空間における身体の方向を示す曖昧な検知器として知られており、gravitational and translational(垂直加速と並進加速?) signalsによるものと同様に活性化する。
      • これらの曖昧さは、視覚と体性感覚入力を考慮することで解決される。
      • 並進運動と関連した異常なotolithic activityは、身体位置が動かないにも関わらず、(視覚上の身体が)うつ伏せあるいは仰向けの態勢をとっていることによる視触覚信号の不和と統合されることによって、(自分自身の身体の)方向の変化として発現される。(小鷹注:いまいち理解できていない。)
      • 確たる証拠はないが、仰向けの状態にあっては、PIVCMSTVIP内のtrimodalニューロンが、現実の身体位置を符号化するのみならず、空間的に上昇しさらに180度反転した領域をも符号化し、結果、うつ伏せで地面を見下ろすように経験されるのかもしれない。
      • 人の脳画像・脳疾患研究とPIVCMSTが視覚前庭系の処理に果たす重要な役割を踏まえると、first-person perspectiveとself-locationはこの2つの領域(PIVCMST)の内部で生起する一方で、VIPは、first-person perspective・self-locationに加えてself-identificationをも符号化していると考えられる。

*1 Aspell, J. E., Lenggenhager, B., & Blanke, O. (2009). Keeping in touch with one’s self: multisensory mechanisms of self-consciousness. PloS One, 4(8), e6488. doi:10.1371/journal.pone.0006488
*2 EBAにおける身体認識に関する解説:https://www.facebook.com/sinkeikagaku/posts/352023121558964
*3 heautoscopyに関する優れた解説:http://www011.upp.so-net.ne.jp/konkonfj8/kaiki.html
*4 Mizumoto, M., & Ishikawa, M. (n.d.). Immunity to Error through Misidentification and the Bodily Illusion Experiment. Imprint Academic. Retrieved from http://www.ingentaconnect.com//content/imp/jcs/2005/00000012/00000007/art00001
*5 Ionta, S., Heydrich, L., Lenggenhager, B., Mouthon, M., Fornari, E., Chapuis, D., … Blanke, O. (2011). Multisensory mechanisms in temporo-parietal cortex support self-location and first-person perspective. Neuron, 70(2), 363–74. doi:10.1016/j.neuron.2011.03.009
*6 Blanke, O., Ortigue, S., Landis, T., & Seeck, M. (2002). Stimulating illusory own-body perceptions. Nature, 419(6904), 269–70. doi:10.1038/419269a
*7 Petkova, V. I., Khoshnevis, M., & Ehrsson, H. H. (2011). The perspective matters! Multisensory integration in ego-centric reference frames determines full-body ownership. Frontiers in Psychology, 2, 35. doi:10.3389/fpsyg.2011.00035
*8 Petkova, V. I., Björnsdotter, M., Gentile, G., Jonsson, T., Li, T.-Q., & Ehrsson, H. H. (2011). From part- to whole-body ownership in the multisensory brain. Current Biology : CB, 21(13), 1118–22. doi:10.1016/j.cub.2011.05.022
*9 David, N., Bewernick, B. H., Cohen, M. X., Newen, A., Lux, S., Fink, G. R., … Vogeley, K. (2006). Neural representations of self versus other: visual-spatial perspective taking and agency in a virtual ball-tossing game. Journal of Cognitive Neuroscience, 18(6), 898–910. doi:10.1162/jocn.2006.18.6.898

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Last-modified: 2017-02-24 (金) 18:55:34 (271d)